涌治庵を作ろうと思ったきっかけがあります。
美味しい湧き水を、皆さんにも飲んでもらいたい。
もちろん、その思いもあります。
でも、本当の始まりは今年の二月に起きた、
ある出来事でした。
集落で使っている湧き水が、ある日突然、
水量を大きく減らしたのです。
原因を調べるために水源まで足を運ぶと、
そこではいつもと変わらず、
こんこんと水が湧き出ていました。
という事は、水源から集落の貯水タンクまでの、
約三キロの配水管のどこかで漏水している。
そう考え、何の目印もない山の中を、
父のかすかな記憶だけを頼りに歩き続けました。
そして、ようやくその場所を見つけた時、
自然と心の中に浮かんできた思いがあります。
「このまま、この水を廃れさせてはいけない。」
それが、涌治庵の始まりとなる
最初の一歩でした。
そして、涌治庵のある場所まで水を引く工事は、
距離にすれば約二百メートル。
それでも実際にやってみると、
決して簡単な作業ではありませんでした。
そして、改めて思ったのです。
今から百年近く前。重機もない時代に、
先人たちは約三キロもの山道を
一本一本、配水管をつないでいった。
それは、自分たちが生きるためだけではなく、
この集落で暮らす人たちのために。
もしかしたら、その先の世代の
子どもたちのために、そんな思いも、
あったのかもしれません。
だからこの場所には、
湧き水とともに当時の人たちの
営みも一緒に流れ続けている。
集落の先人たちが守り、
受け継いできた想いもまた、
この水とともに流れ続けていると。
涌治庵は、その想いを次の世代へ
手渡していくための場所でもあります。
